名プロデューサーの最後のプロデュース作品

エーリヒ・ポマー

ドイツの生んだ名プロデューサーです。数々の名作映画の製作者でした。『メトロポリス』、『嘆きの天使』、『会議は踊る』などなど日本に来た主な映画だけでもこれだけあるようです。『アスファルト』や『ブロンドの夢』、さらには『ゲニーネ』、蜘蛛シリーズ『黄金の湖』、『ダイヤの船』などもポマーの製作作品です。

ポマーはユダヤ人の血を引いており、ナチが政権を獲るとドイツから逃れてしまいます。しかし戦後はドイツに戻り、4つの映画の製作者になりました。

Nachts auf den Straßen(1951/1952・邦題:路上の夜 日本公開1954年8月9日

監督はヘルムート・コイトナーの助監督から戦後西ドイツの名監督となるルドルフ・ユーゲルト。出演者はハンス・アルバースヒルデガルト・クネフ、そしてドイツに戻ってきたルチー・マンハイムなどです。

Illusion in Moll(1952・短調の幻想 [おそらく]日本未公開)

前作同様監督はユーゲント。ナチ時代の名女優・ジビレ・シュミッツ扮する独身の老婦人がフランス俳優モーリス・テナック演じるバンドリーダーに恋をし、彼女の家庭が壊れていく模様が描かれているようです。やがて国際派スタートして活躍することになるハーディ・クリューガーが息子役(?)で出演し、さらにその恋人をクネフが演じているようです。

Eine Liebesgeschichte(1954・愛の物語[おそらく]日本未公開)

これまた監督はユーゲント。クネフ主演。出演者にはナチ映画でも有名だったマティアス・ヴィーマンや日本人妻を持つヴィクトル・デ・コーヴァ、ドイツに復帰したラインホルト・シュンツェルなども登場しています。16世紀のプロシアを舞台にした将校と女優の果たせぬ恋の物語のようです。

そして、最後のプロデュース作品となったのが

Kinder, Mütter und ein General (1955・子供たち、母たち、そしてひとりの将軍 邦題:戦場の叫び 日本公開1957[昭和32]年11月19日)です。

監督はハンガリー系の半ユダヤ人で久々にドイツで仕事をすることになったラズロ・ベネデク日本にも作品は輸入されているようですが、あんまり有名作はなさそうです。アメリカで撮った『セールスマンの死』ぐらいか? 撮影は『メトロポリス』などで有名なカメラマン、ギュンター・リッタウ。大戦中はナチの戦意高揚映画U-Boote westwärts!(1941年5月 邦題:Uボート西へ! 日本公開1943[昭和18]年)の監督も務めています。

クラウス・キンスキー扮するLeutnant, der nicht mehr lacht(これ以上笑わない少尉)がマクシミリアン・シェル扮するSoldat, der nicht mehr mitmacht(これ以上[戦争に]参加したくない兵士)に詰問し、銃殺してしまうところは名シーンとして知られているようです。

この映画では、軍隊に対して臆しない母親たちの姿が描かれています。もっとも女優たちの戦中の立場はバラバラでした。ヒルデ・クラール などドイツに残っていた女優もいれば、テレーゼ・ギーゼラのように亡命していた女優もいました。

なお、名優マクシミリアン・シェルにとって、この映画こそデビュー作でした。後には国際的俳優として冷血なナチの将軍役が多かったシェルですが、この映画では珍しく兵士に扮しています。さらにはベルンハルト・ヴィッキー や ハンス・クリスティアン・ブレッヒ なども登場しています。

日本ではソフト化はされていないと思います。しかし、ドイツではDVD化されています。またVeohに完全版があります。字幕はありません。それにしてもナチ時代は亡命していた人物であるポマーが、ナチ時代の人間たちを描いた映画を最後の仕事にするとは…どこまでも“ドイツ人意識”が残っていたというか…。

ポマーの晩年のドイツでの仕事は、ナチの協力者といわれても仕方がない人たちと、亡命先から帰ってきた人たち、そして、この後の西ドイツ映画界、さらには国際的に活躍する俳優たちとの協同だったようです。このあたりのこだわりはなかったのかもしれません。

最後に、戦後の国際派俳優たちの名前を、もう一度繰り返してみると…ヒルデガルト・クネフ、ハーディ・クリューガー、クラウス・キンスキー、マクシミリアン・シェル…こういった人たちもポマーのプロデュース作品を経て世界へ向かっていったのだなと思うと、ドイツ映画史の中における、その存在の大きさをあらためて感じるところです。

煩想亭覗庵 について

ドイツ語が不自由なドイツ映画ファン。知識・見解にかなりの偏りあり。いろいろ教えてくださいませ。
カテゴリー: エーリヒ・ポマー, ジビレ・シュミッツ, ヒルデガルト・クネフ, ルチー・マンハイム, 西ドイツ時代 パーマリンク

コメントを残す