フリッツ・ラングの擬似エキゾチック・ヤーパン

昔はありがちなものだった、外国を舞台に描いた、映画によるエキゾチック体験。

昔、ドイツから見た日本はどうだったか…というところでフリッツ・ラングの映画Harakiri(ハラキリ・1919年 日本未公開←そりゃそうだろう)を出してみます。以前、Face Bookでも話題に出したことがありました。同じ話を失礼します。

あらすじは…こちらからダウンロードすればオランダ語とともに英語の字幕も添えてあるヴァージョンがあるので、辞書を片手に筋が探れます。日本語でざっと知りたい方は、平井正さんのホームページを参照しましょう。(検索で 平井正 ハラキリ と入れればたどり着けます)幕末マニアや時代劇ファンからすればバカヤローものの設定ですが、デタラメを前提に見ればそれなりに興味深いものです。

2005年のドイツ映画祭「ドイツ時代のラングとムルナウ」のカタログ(20ページ)によると、ジョン・ルサー・ロングデヴィット・ベラスコの芝居『蝶々夫人』と(オーエン・)ホール[台本]=(シドニー・)ジョーンズ[作曲]の『ゲイシャ』の設定をマックス・ユンク(Max Jungk)という脚本家が、自由に翻案したもの(らしいです)。ユンクの経歴を見る限り、他に日本を舞台にしたらしい映画はありません。特に日本についての知識が深かったわけでもなさそうです。

長崎に“吉原”があったり…ありもしない日本のしきたりがあれこれあったり…。日本人から見れば確かに、茶番に過ぎない物語と画像です。

白人が日本人を演じるだけで奇妙なのに…いや、日本人が舞台などで白人を(場合によっては黒人などを)演じることは普通にあること。そう思ってみればいいかもしれません。

1919年当時に作られた擬似日本エキゾ映画としては、考証はそれなりに頑張っているような感じもしないでもありません。変に中国などの風俗とも混ざっていませんし。

物語の舞台は幕末で間違いなさそうですが…「吉原」って長崎にあったのか? なわけありません。「マタハリ」という侍が出てきたり、「トクヤワ」が単なる一大名(?)だったり、女性がハラキリならぬ切腹をしたり(そういうシーンは出てこないのですが…)奇怪極まりない設定ですが、セットの出来は良いか悪いかは別とすれば、なかなか頑張っている感があります。

資料によるとハンブルクの民俗博物館の考証や、在独日本人によるセットの貸し出しやエキストラ出演もあった模様。オープンセットはハンブルクの動物園とベルリン郊外、屋内撮影はベルリンの撮影所だったようです。「もの」はそれなりに豊富ですが、漢字がデタラメなのはご愛嬌ですかね。

Spione”(スパイたち)ドイツ公開1928年、邦題:スピオーネ 日本公開1930年の一部。9:30ごろからは女スパイの色仕掛けでまんまと条約書を盗まれ、責任を取って“切腹”する日本の外交官マツモトが描かれています。これはなかなかリキの入った“切腹シーン”です。

マツモトを演じるループ・ピックは白人としては平べったい顔立ちだったので日本人役もそれなりのようです。

この2作品は、ラングが正確とはいえないまでも日本というものにこだわって作ったような部分があります。しかし…。

アメリカに渡ってからの映画 American Guerrilla in the Philippines(フィリピンのアメリカ軍ゲリラ) 1950年、独題 Der Held von Mindanao(ミンダナオの英雄)、日本未公開←そりゃそうだ は、フィリピン人役者による日本人が登場。こちらはYou Tubeで検索を続けると全編観ることができますが

朝鮮戦争直前に作られたアメリカ愛国映画で、フィリピン政府が全面協力しているとのこと。米比友好の証として作られたような作品。戦闘機も飛ばし、艦船も出しているので、それなりに金はかかっているのでしょう。しかし、“日本人”の描き方にはまったくこだわりがありません。単なる悪党です。日本語もデタラメですし。

『フィリピンのアメリカ軍ゲリラ』を観てから『ハラキリ』を見ると、むしろ微笑ましささえ感じることになります。

煩想亭覗庵 について

ドイツ語が不自由なドイツ映画ファン。知識・見解にかなりの偏りあり。いろいろ教えてくださいませ。
カテゴリー: ナチ時代, フリッツ・ラング, リル・ダゴーヴァー, ヴァイマール時代, 監督 パーマリンク

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